大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 平成11年(行コ)21号 判決

控訴人

吉田時次郎

右訴訟代理人弁護士

尾関闘士雄

被控訴人

右代表者法務大臣

臼井日出男

右指定代理人

鈴木拓児

小林孝生

平山友久

奥野清志

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、五二万六一〇〇円及びこれに対する平成一〇年三月三日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

事案の概要は、以下のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」(原判決三頁七行目冒頭から同一三頁初行末尾まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決八頁初行末尾に次のとおり付加する。

「 又、右は放電エンジニアリングが、控訴人が退職したときに退職金を支払う目的で、昭和五七年二月二七日、郵政省との間で、控訴人を被保険者とする簡易養老保険契約を締結した(甲九)ものであるから、」

2  同九頁七行目末尾のあとに改行して次のとおり付加する。

「(三) 控訴人主張の簡易養老保険は、控訴人に対する退職金支払いの目的で加入されたものではない。」

3  同一〇頁七行目から八行目にかけて「同人らの威嚇的言辞によって強要されたものであるから、」とあるのを「同人らから税理士の資格を有していないのに他から依頼を受けて経理等の仕事をしているのは税理士法違反であるから、摘発する等と脅迫されたため、本件金員を事業所得として本件修正申告をしたものであるから、民法九六条によって、」と改める。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人が放電エンジニアリングを退職した際に受領した本件金員四八〇万円は、退職所得ではなく、事業所得に該当し、これを前提とする修正申告は有効であり、五二万六一〇〇円の課税徴収は正当であって、被控訴人に不当利得はないと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由説示(原判決一三頁二行目冒頭から同二六頁三行目末尾まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一三頁四行目「1」のあとに次のとおり付加する。

「 一般に、事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいい、特に、給与支給者との関係においてなんらかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。又、退職金は、それが(1) 退職即ち勤務関係の終了という事実によってはじめて給付されること、(2) 従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること、(3) 一時金として支払われることの要件を備えることが必要である。(最高裁判所昭和五六年四月二四日第二小法廷判決、判例時報一〇〇一号二四頁、同裁判所昭和五八年九月九日第二小法廷判決、民集三七巻七号九六二頁)

これを本件についてみるに、」

2  同二四頁初行「郵便局の職員から」から同三行目末尾までを次のとおり改める。

「郵便局の職員から、保険の掛金は会社の経費になるので税法上も有利であると勧誘され、控訴人とも相談した上、満期になった場合には会社の資金に充てればよいと考えて、米次郎、アヤとともに、控訴人をも被保険者とする右保険契約を締結したものであり(乙六、問21)、控訴人が退職する事態を想定し、退職金の支払いのため加入されたものではないと認められる。」

二  結論

以上によれば、控訴人の本件請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行訴法七条、民訴法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論の終結の日 平成一二年三月二一日)

(裁判長裁判官 笹本淳子 裁判官 鏑木重明 裁判官 倉田慎也)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例